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第3話 ― なってもうた

[第3話 ― なってもうた]

目を開けると、天井に見覚えがなかった。

いや、見覚えがなくはなかった。考試院の天井はどれも同じだ。水染みの場所が違うだけだ。私の部屋の染みはドアの側にあり、この部屋の染みは窓の側にあった。それで分かった。昨日が夢ではなかったということが。

手を上げてみた。細くて白くて、爪が丸かった。その手で顔に触れた。私の顔ではない顔。二日目なのに、その感覚には少しも慣れなかった。慣れてはいけない気もした。

他人の部屋のベッドに横たわったまま手をかざし、見慣れない自分の指を見つめる女性

携帯が鳴っていた。その音で目が覚めたのだった。

「末っ子」。

八時四十分。私は画面を見た。昨夜「お姉さん、本当に大丈夫なんですよね…?」に返事をしないまま寝たことを思い出した。その上に、夜のうちに来た文字がもうひとつあった。

「社長: 今日は練習無理するな。具合が悪ければ休め。でも来週は出てこないといけない すまない」

すまないという言葉を文字の最後に付ける人。昨日の「四人で分けろ すまない」もこの人だった。私はその人の顔も知らなかった。

出た。

「お姉さん!! なんで返事くれないんですか、私一晩中心配したんですよ。今どこですか? 部屋ですか?」

「あ… うん。」

「今日十時から練習なの分かってますよね? 体は大丈夫ですか? 社長は無理するなって言ってるけど、お姉さんの性格だとそのまま来そうで…」

十時の練習。分かっていた。昨日この子に、自分の口で「明日十時から練習やろ」と言ったのは私だった。けれど問題はそこではなかった。

練習室はどこだろう。

壁に貼られたA4のカレンダーを見た。今日の欄に「練習 10時」とだけ書かれていた。場所はなかった。毎日行く所には、もともと場所を書かない。私も会社の住所をどこかに書いておいたことはない。十年通った釜山の会社も、ソウルに来て通った会社も。その住所は足が知っていた。けれどこの足はこの子の足なのに、この足を動かしているのは私だった。

「お姉さん? 聞いてます?」

「うん、聞いとるで。あのな… ジュヒ。」

末っ子の名前は、昨夜あふれ返っていた通知の中から拾ったものだった。この携帯には「末っ子」とだけ登録されていたが、グループトークで誰かがその子を「ジュヒ」と呼んでいた。その名前を呼びながらも、これが正しい名前なのかは半分賭けだった。その子が「はい?」と応じた。合っていた。

「練習室って… どこやったっけ?」

沈黙が来た。長かった。

「…お姉さん。今ふざけてるんですよね?」

ふざけてはいなかった。けれど本当のことを言うわけにはいかなかった。「私は三十四歳のソ・ジアンで、おととい、あんたたちのお姉さんと階段で一緒に転げ落ちたんだけど、目が覚めたらあんたたちのお姉さんの体だった」という話をどこから始めればいいのか、私には分からなかった。それを口にした瞬間、この子が昨夜よりもっと大きな声で泣くだろうということだけは分かっていた。

それで口から出た言葉はこれだった。

「うちな、あれやんか、階段から転げ落ちて… 短期記憶喪失になってもうた。」

言ってから自分でも驚いた。三十四年生きてきて、こんなに厚かましい嘘をついたことはなかった。取引先に「検討中です」と言うときでさえ、ここまで厚かましくはなかった。けれどそれはまた、まったくの嘘というわけでもなかった。私は本当にこの体の記憶をひとつも持っていなかったのだから。記憶を失ったのではなく、記憶が初めからないのだったが、その違いをこの子に説明する方法がなかった。

「…お姉さん、なんで声がずっとそんな感じなんですか? 昨日から変だったけど。」

「それも… 頭をけがしたからやろな。うちも分からへん。」

"…"

「ジュヒ。あんたどこおるん? ちょっと迎えに来てくれへんか。」

電話の向こうで、その子が大きく息を吸い込む音が聞こえた。それから走る音。

「十分で行きます。そこにいてください。動かないでくださいね。絶対に。」

切れた。私は携帯を置いて、天井の水染みをもう一度見た。

*

部屋を出る前に鏡を見た。

鏡の中の女は昨日よりもっとやつれていた。他人のベッドで寝た跡が出ていた。長い髪は片側に押しつぶされていて、昨日病院から着て出た服のままだった。ハンガーには手縫いの跡がある舞台衣装が一着あるだけだった。ベッドの下の収納箱を開けた。普通の服が何着か畳まれていた。パーカーをひとつ選んだ。他人の服を選ぶのは、他人の鍵で他人の扉を開けたときよりもっと奇妙だった。鍵はただ回せばいいが、服は選ばなければならなかった。選ぶというのは、この子なら何を選んだだろうかを考えるということだった。

髪はどうすればいいのか分からないので、とりあえずひとつに結んだ。会社に通っていたころ、私の髪は肩にも届かなかった。髪を結んだのが何年ぶりか数えかけて、やめた。

鏡の前でパーカーを着て、長い髪をひとつに結ぶ女性

外に出ると雨上がりの朝だった。考試院の前の路地を、女の子が走ってきていた。小さくて痩せていて、髪を高く結んでいた。顔を見るより先に声が届いた。

「お姉さん!!」

その子が私を抱きしめた。私は抱きしめられる側だった。奇妙だった。三十四になるまで、私をこんなふうに抱きしめてくれる人がいただろうか。その子の肩越しに、私は少し考えた。いなかった。祖母のほかには。

雨上がりの朝の路地で駆け寄り、女性をぎゅっと抱きしめる、髪を高く結んだ少女

「本当に大丈夫なんですか? 頭どこけがしたんですか? 病院では何て? そのまま出てきたんですか?」

「…うん。そのまま出てきてん。」

嘘ではなかった。私は本当にそのまま出てきた。誰も私を引き止めなかった。この体は何ともなかったのだから。

その子が私の顔を両手で挟んだ。こっちへ向け、あっちへ向けた。

「あざもないね。でもなんで記憶が… お姉さん、私の名前なんですか?」

「ジュヒ。」

「名字は?」

言葉に詰まった。その子の目が大きくなった。

「…ユ・ジュヒです。お姉さん。ユ・ジュヒ。お姉さんが私の名前をつけたわけでもないのに、なんで知らないんですか…」

その子の目に涙がたまり始めた。私は手を上げて、その子の頭を押さえた。それは私の手が勝手にしたことだった。バイトを十やりながら、泣く後輩をなだめるときに百回はやった動作だった。

涙をためた少女の頭を、手でそっと押さえてなだめる女性

「こらこら。泣きなや。名前ひとつ忘れたくらいで何を泣いとるん。行こ。遅れるで。」

その子は泣きながら笑った。そして私の手を取って先に立った。

「お姉さん本当に変です。でもお姉さんなのはお姉さんです。私の頭を押さえるのは同じです。」

同じだって? 私はその言葉を噛みしめた。この体の持ち主も、この子の頭をこうして押さえていたということだった。二十二が、二十歳になるかならないかの子をそうやってなだめていたということだった。その子も誰かからそれを教わったのだろう。私のように。

*

練習室まで行く道すがら、その子は休まずしゃべった。私は聞いているだけだった。聞いているだけでいい場は楽だった。会社で知らない会議に入ったときに使っていた方法だった。何も聞かずにうなずいてさえいれば、相手が全部話してくれる。

「社長から昨日の夕方電話が来たんです。お姉さんが考試院の階段で転げ落ちて、あるおばさんと一緒に転げ落ちたんだけど、そのおばさんは集中治療室に行ったって。お姉さんは大丈夫だけどちょっと変だって。それからお姉さんが病院からいなくなったって。私、それから狂ったみたいに電話したんですよ。」

おばさん。私はその言葉に一瞬足が遅くなった。集中治療室のガラス窓の向こうに横たわっている私は、この子にとっておばさんだった。

「…そのおばさんは、どないなったって?」

「知りません。社長も知らないって。どうしてですか?」

「…なんもあらへん。」

「お姉さん本当に変。お姉さん、もともと人の心配あんまりしないじゃないですか。自分の心配もしないし。」

コンビニの前を通りかかったとき、その子が急に入っていった。出てきながらバナナ牛乳を差し出した。

「お姉さん、朝ごはん食べてないでしょ。その顔は食べてない顔です。」

「…あんたは食べたんか。」

「私はもともと食べないんです。」

もともと食べないと言う顔があまりにも平然としていたので、私はその牛乳を半分飲んで、半分をその子のほうへ押しやった。その子は笑いながら受け取った。その笑顔も、どこかで見た笑顔だった。観客十人の前で笑っていた、あの写真の中の笑顔。

コンビニの前で半分飲んだ牛乳を少女に差し出す女性と、笑って受け取る少女

練習室は考試院から歩いて十五分だった。商店ビルの地下だった。一階は携帯ショップ、二階は塾、地下は看板がなかった。階段を下りていくと、その子が私の腕をぎゅっとつかんだ。

雑居ビルの地下へ下りる階段で、女性の腕をぎゅっとつかむ少女

「ゆっくりですよ。お姉さん、階段で転げ落ちたじゃないですか。」

階段。その言葉に、私はおとといのあの考試院の階段を思い出した。転げ落ちる瞬間、私の目に入ってきた白い顔。その顔が今の私の顔だった。

*

扉を開けると鏡が先に見えた。壁一面がまるごと鏡だった。片隅にひびが入っていて、その上にテープが貼られていた。鏡の前で女の子が二人ストレッチをしていた。天井の扇風機が回っていて、壁には手書きのスケジュール表が貼られていた。昨日のあの部屋のカレンダーと同じ字だった。この子の字。

「あ、来た。」

背の高いほうが立ち上がった。髪が短くて、目が少し怖かった。もう一人は座ったまま私を見上げた。顔が小さくて目が大きかったが、何も言わなかった。ただ見ていた。

鏡張りの練習室で立ち上がった背の高いショートヘアの女性と、座ったまま見上げる目の大きな女性

「ミニお姉さん、大丈夫だって? 私、昨日ほんとに…」

「大丈夫だって。でもちょっと変なの。」

ジュヒが代わりに答えた。私はその「ミニ」という言葉に半拍遅れて反応した。ミニ。この体の名前はミニだった。昨日身分証で見ても、とうとう声に出して読めなかった名前を、こうして他人の口から初めて聞くことになった。名前が音になると、この体がいっそう他人のもののように思えた。

「変って?」

「お姉さんが私の名字を知らないの。」

背の高い子が笑った。

「何それ。ねえ、キム・ミニ。私、誰でしょう。」

試験だった。私は何も知らなかった。けれど三十四年の場数というものがある。知らない人の前で、知らないことを悟られない技術。会議室で十年、そうやって生きてきた。

「…あんた、分かるか。あんたが誰か、あんたが分かっとかなあかんやろ。」

背の高い子の笑みが消えた。

「ちょっと。あんた今の口調なに。」

「頭をけがしたからやって言うてるやん。」

「なんで方言なんか使うの? あんたソウルの人じゃん。」

そこで私は初めて本当にうろたえた。この体の持ち主はソウルの人だった。だとすれば、今この口から出ている釜山の言葉は、まるごと私のものだった。体ではなく、私が漏れていた。ソウルに出てきて会社に通うあいだ一度も漏れなかったものが、この子たちの前では最初のひと言から漏れた。理由は分かる気がした。この子たちが私より若いからだった。私は年下の子たちの前では、いつもこの口調だった。

「…うちも分からへん。」

その言葉は本心だった。

座っていた子が、そこでやっと口を開いた。

「ソヨン。本当にけがしてるみたいだけど。」

声が低くてきれいだった。歌う人の声だった。

「ウナお姉さんはなんでいつもかばうの。この子、今私たちのことからかってるんじゃん。」

「からかってる顔じゃないよ。」

「じゃあ聞いてみなよ。ねえ、私たち来週どこ行く?」

「…スーパー。開店式。」

それは知っていた。昨日、文字で見た。ソヨンの顔が微妙になった。

「それは分かるんだ。じゃあ、うちのチーム名は?」

言葉に詰まった。昨夜あの部屋で見たものの中に、チーム名はなかった。写真にも、ノートにも、カレンダーにも。自分のチーム名を書き留めておく人はいない。

"…"

「ねえ。」

「…それは分からへん。」

ソヨンが口をつぐんだ。ウナが立ち上がって私の前に立った。私より少し小さかった。顔がとても近かった。

「ミニ。」

「…うん。」

「あんた今、怖い?」

顔をすぐ近くまで寄せて、女性の目をのぞき込む目の大きな女性

怖いかと。私は少し考えた。怖かった。昨日あのカフェであの男が声を荒らげたときほどではなかったが、怖かった。ばれるのがではなく、この子たちが私のせいでどうなってしまうのかが。

「…ちょっとな。」

「分かった。」

ウナはそのひと言だけ言って背を向けた。どういう意味で分かったと言ったのかは分からなかった。

ウナ。ソヨン。ジュヒ。そしてミニ。四人だった。私は鏡の前に立って、その三人を見た。昨日アルバムで見た顔だった。観客十人の前で、本当に笑っていた子たち。

「とりあえず体ほぐして。十時だよ。」

*

体をほぐすところまではできた。ストレッチは、会社のヨガ同好会に一か月通ったことがあった。それに、この体はよく伸びた。脚が開く角度が私の体の倍はあった。体がいいのだった。問題はその次だった。

「最初からいくよ。ワン、ツー。」

音楽が流れた。三人が同時に動いた。私は動かなかった。いや、動いた。皆より二拍遅れて、反対側へ。

「ちょっと!」

音楽が止まった。ソヨンが私を見た。

「何してんの?」

「…分からへん。」

「振り付けが分からない? あんたが作ったのを?」

私が作ったと。その言葉が痛かった。この体の持ち主が作ったものを、この体を持っていながらできずにいた。

「もう一回。ワン、ツー。」

また間違えた。今度は右手が先に出なければならないのに、左手が出た。またまた間違えた。今度は手は合っていたのに、足が出なかった。体が覚えているものだと思っていた。こういう体は、こういうことを自然にできるものだと思っていた。けれど違った。この体はよく伸びるだけで、何をするかは知らなかった。何をするかを知っているのは頭で、その頭が私だった。三十代の事務職の頭。右手と左足がばらばらに動く頭。

鏡の中で振りを間違え、立ち止まって自分を見つめる女性

「ああもう… これ、どないすんねん。」

鏡の中で、それを言っている私が見えた。二十二の顔で三十四が言う台詞。三人が同時に私を見た。ソヨンが音楽を消した。

「…本当なんだ。」

「何が。」

「本当にけがしたんだ。この子、今演技できない。この子、もともと演技できないじゃん。」

「お姉さん、本当に演技下手なんですよ。去年スーパーで景品もらうふりして…」

「ジュヒ。」

「…はい。」

ジュヒが携帯を持ち上げた。手が速かった。

「あのですね。私、昨日これ調べたんですけど。頭をけがしてから急に外国語をしゃべる人がいるらしいんです。本当にいるんですって。ほら、見てください。脳のどこかをけがすると口調が変わるんですって。」

「それは外国語じゃん。この子は方言じゃん。」

「方言だって言葉じゃないですか!」

三人が携帯ひとつに頭を寄せた。動画の音が漏れてきた。ある外国の女性が、事故のあと別の国のアクセントで話すようになったという話だった。字幕が速かった。ソヨンが指で画面を止めた。

一台のスマートフォンに頭を寄せ合う三人の女性

「この人、その国に行ったこともないんだって。」

「だからですよ。」

「でもこれはアクセントが変わったんであって、言葉が変わったわけじゃないじゃん。この子は今、単語を使ってる。「どない」って何よ。「やんか」はまた何。」

「…じゃあ、お姉さんのほうがもっとひどいってことですね。」

三人が同時に静かになった。私はその三人の後頭部を見た。三人とも真剣だった。笑う人はいなかった。笑ってほしかった。笑えば流せることなのに、この子たちは笑わなかった。それが、この子たちがこの子をどれほど大事に思っているかを物語っていた。

「…でもお姉さんは、慶尚道の方言をどこで覚えたんだろう? 私たちの中に慶尚道の人いないじゃん。」

「だから不思議だって言ってるんですよ。習ったこともない言葉が出てくるって言うじゃないですか。」

「そんなことある?」

「目の前にあるじゃないですか。」

ウナがそう言って私を見た。その目は怖がっている目ではなかった。何かを測っている目だった。私はその目を避けなかった。避けたら負けだということを、会社で学んだ。

「…とりあえず今日は後ろで見てて。四人でやるのを見れば、何か思い出すでしょ。」

「三人でしょ。この子抜いたら。」

「…三人でやるの。」

「うん。」

私は壁にもたれて座った。三人が音楽をかけた。そして踊った。

壁にもたれて座り、鏡の前で踊る三人を見つめる女性

*

三人が踊るのを二時間見た。

二時間のあいだ、誰も休もうと言わなかった。水を飲みに行くときも走って行った。ソヨンは同じ区間を十二回繰り返した。十二回目にできたと自分の口で言って、十三回目をまたやった。十三回目が終わると、鏡を見ながら一人で「まだ」と言った。誰にも聞こえていないと思っていたのだろう。

ウナは曲もかけずに、口だけを開けて拍を数えていた。喉を大事にしているのだと、ジュヒが通りすがりに教えてくれた。スーパーの開店式は野外だからマイクがよくないと、それでウナお姉さんは一週間前から喉を使わないのだと。一週間前から喉を使わず、一日二時間、口だけを開けて立っている人を、私は初めて見た。

鏡を見ながら踊る背の高い女性と、口だけを動かして拍子を数える目の大きな女性

ジュヒはいちばん年下なのに、いちばん先に汗をかき、いちばん遅く座った。座ってからも足首を回していた。昨日あの部屋で見たテーピングとまめの薬が誰のものだったのか、分かる気がした。この子のものではなく、この子たちのものだった。

そして三人とも、ときどき私を振り返った。

「お姉さん、ここのこの動き覚えてます? お姉さんがいちばん得意だったやつなのに。」

「このパート、もともとミニのパートだよ。あんたがここで前に出るの。」

「キム・ミニ。あんた、来週のスーパーの開店式までにこれ全部覚えられなかったら、私たち三人でやらなきゃいけないんだからね。」

ひと言ずつ投げかけながら、三人とも私を待っていた。怖がりながら待ち、苛立ちながら待ち、泣きそうな顔で待っていた。この子が戻ってくるのを。

私はその子ではなかった。

座って見ていると、何度も私の二十二が重なった。バイトを三つ掛け持ちしながら、明け方、図書館が開く前に列に並んでいた私。あのとき私の隣には誰もいなかった。一緒に待ってくれる人も、「あんたのパートだよ」と押し出してくれる人も、バナナ牛乳を買ってくれる人も。私は一人でやったし、だから一人でやり遂げるのが当然だと思っていた。けれどこの子は三人だった。三人だからこそ、もっと怖いのだった。一人で潰れるなら一人で潰れるだけだが、この子が潰れれば四人が潰れた。

昨夜あの部屋で「この子はどこへ行ったのか」と初めて思ったとき、それは申し訳なさだった。今日この地下で、その思いは別のものになった。これは申し訳ないのではなかった。これは私が壊しているのだった。この子が手縫いで舞台衣装を直し、新しいスニーカーを箱ごと大事にし、歌詞ノートの最後に「今日も舞台ひとつ」と書いて生きてきたものを、私がたった一日で「これ、どないすんねん」にしてしまっていた。

来週のスーパーの開店式。ギャラ五万ウォン。四人で分けて一万二千五百ウォン。

一万二千五百ウォンの舞台のために、ウナは一週間喉を使わず、ソヨンは十三回踊り、ジュヒは足首にテープを巻いた。その舞台にこの体が立たなければならなかった。この子の代わりにではなく、この子として。

戻る方法は分からなかった。あの男は「時が来れば」とだけ言った。その時がいつなのかは教えてくれなかった。だとすればそれまでは、この子の人生を台無しにしないこと以外に、私にできることはなかった。

「…ジュヒ。」

「はい?」

「あんた、今日の夕方時間あるか。」

「…ありますけど?」

「うちにちょっと教えてや。最初から。二人だけで。」

ジュヒが私を見た。その子の顔で何かが崩れて、また立て直された。

「…お姉さんが私に習うってことですか?」

「うん。あんたがいちばんよう分かっとるやんか。うちの動きを。」

「…お姉さんが私にいちばんたくさん教えてくれたのに。」

「ほんなら、あんたが返してくれたらええやん。」

「…はい。」

その子がうつむいた。そしてまた顔を上げたときには、鼻水が出ていた。

顔を上げ直した、目元と鼻先の赤くなった少女

「お姉さん本当に… お姉さん本当に変なのに、本当にお姉さんみたいです。」

どういう意味なのか、私には分からなかった。けれどなぜか、その言葉が今日聞いた言葉の中でいちばん重かった。

ソヨンがその横で、腕を組んだまま言った。

「ねえ、キム・ミニ。来週までにできなかったら、本当に私たち三人でやるからね。」

「…分かった。」

「それと、その口調なんとかしてみて。舞台でそれやったらどうすんの。」

「…頑張ってみるわ。」

「それだよ。それをやめろって言ってんの。」

"…"

三人が同時に私を見た。そして三人が、一緒に、笑った。

鏡の前で三人がそろって笑う姿

*

カフェ QUANTARO の午後は客がいなかった。もともといない。あの扉は誰にでも見える扉ではなかったのだから。

ムン・ウヌはカウンターの中に立っていた。グラスを拭いていたが、同じグラスを三度目に拭いていることに本人は気づいていなかった。昨夜あの女を扉の外へ押し出してから、彼はカードを一度も取り出さなかった。取り出せば、また何かを見てしまいそうだったからだ。余計なものまで。

階段の上からチャ・ウジンが下りてきた。韓服の裾が音もなく階段を撫でた。その後ろからチェ・ゴヌがついて下りてきた。チェ・ゴヌはいつも無口で、いつも二歩後ろにいた。

カウンターでグラスを磨くバリスタの向こうで、階段を下りてくる韓服姿の男性と、二歩後ろをついてくる大柄な男性

「ウヌ君。先ほどの話ですが。」

(中略)

「はい? そんなことがあり得ますか?」

ムン・ウヌがグラスを置いた。音がした。このカフェで彼が音を立ててグラスを置いたのは久しぶりだった。

「そうでなくとも昨日のタロット占いで、なぜあの子と一緒にいるのかと考えはしましたが、マネージャーだなんて。私は占術師です。いっそ護衛武士、つまりボディーガードならまだしも。あの洟垂れどもの世話を、どうして私ができましょうか。別の役目をください。」

チャ・ウジンはカウンターの前の椅子に座った。チェ・ゴヌが後ろに立った。チャ・ウジンは笑っていた。彼はたいてい笑っていた。その笑みが何を意味するのか、ムン・ウヌはここに来てから一度もまともに読み取れたことがなかった。カードでも。

「はははは。ウヌ君がそんなに熱くなるのは久しぶりですね。いつも落ち着いているので、表情がないのだとばかり思っていましたが、余計な心配でしたね。」

「代表。」

「ウヌ君がこれほど喜ぶと分かっていたなら、外の仕事をもっと早くから任せたものを。私の不徳です。」

「いいえ、何をおっしゃるんですか!! 私にはやるべきこともあるんですよ!」

カウンターの上のグラスが揺れた。チェ・ゴヌの視線がグラスへ行き、また前へ戻った。チャ・ウジンはそのグラスを見もしなかった。彼はムン・ウヌを見ていた。

「ふふ。ウヌ君?」

「…はい。」

「ウヌ君が探している、重なる世界の秘密が、彼女にあるとしてもですか?」

ムン・ウヌの手が止まった。

「はい?? それはどういう意味ですか?? それに、それをどうやって…」

チャ・ウジンは相変わらず笑っていた。あどけない顔だった。その顔で、彼はとても古いものを問う声で言った。

「西域のタロット占術師が、東洋の小さな我々の圏域に志願した理由は、何だったのでしょうね?」

(第3話 了)

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